芳香妻ネタバレ感想
金魚妻のネタバレと感想、漫画を無料で読める方法を紹介。
雪降る街。
職場の飲み会の帰り、同じタクシーに乗った人妻からは、特別な香りがした。
軒端薫・45歳。
芳香妻
一軒目が飲み終わって、二次会に行く面々はタクシーに乗り込み始めた。
外はかなり雪が降っていて寒さが身に沁みる。
数少ない若手社員の融が乗り込んだ車内には、先に座っていた先輩人妻の薫の匂いが立ち込めていた。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
融は酔っている勢いのせいか、車が走り出すなり東京にいる彼女にもう会えないと言われたことを愚痴り出した。
さっきまでそのことで同僚や上司のおじさん勢からいじられていたせいで、彼は二次会には行きたくなかったのだ。
そつなく仕事ができて印象もよく飲める若者と言えば融くらいなので、彼が連れまわされるのは仕方がなかった。
でも、それなりに能力が高いのもあって、愚痴を零す相手もしっかり見極めていた。
薫が次の日に家族と朝からアウトレットに買い物に行くので二次会は行かないと分かると、彼はもう飲めないと泣き言を言い始め、上司からの電話を薫に押し付けてしまった。
彼女は仕方なく電話に出て、彼の具合が悪そうだとごまかしてあげた。
するとすぐにケロリとして運転手に道を指示し出すので、彼女は思わず吹き出してしまった。
しかし、また直後に袋を抱えて吐いたので、本当に酔ってはいたらしい。
仕方なくその場で降りて、彼の家まで送ることになった。
融は「アキちゃん」と東京にいる彼女の名を呼びながら部屋に着いた。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
電気も止められているような寒々しい部屋を見て薫はそそくさと帰ろうとしたが、駄々をこねる彼に妙に母性本能を刺激されてしまい、お邪魔することにした。
不意に年を訊かれて正直に45だと薫が答えると、彼は嬉しくなるくらい素直に驚いてくれて、日頃の努力が報われる思いだった。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
融の母親は小さい頃に浮気して出て行ったので、彼は母親の年齢さえ知らない。
でも、友達の母親が自分の子供のように接してくれたおかげで、特に寂しさを感じるようなことはなかった。
薫はテーブルにアロマオイルが置いてあるのに気がついた。
それは東京の彼女のものではなく彼の私物で、光熱費を削ってまでアロマオイルにつぎ込んでいるようだった。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
ともあれ、作りたい香りがあると言う。
それはおばさんの香り。
おばさんというか、正確にはその良くしてくれた友達の母親の香りが作りたかった。自分の子供と同じように叱ってもくれることが、嬉しくてならなかったのだ。
その人とは今でも仲良いの?と何気なく薫が訊くと、東京にいるからあまり会えてないですねと答えてくれた。
それで察することができた。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
息子の友達だとか年齢差だとか色々理由はあるが、もう会えないと言った一番の理由を彼は分かっていた。
その人は乳がんだったのだ。
彼女は若くて綺麗な子と付き合いなさい、お金も送るのを止めなさいと言っていた。
さすがにびっくりした薫は言葉を失うが、相談しなさいよねと励ました。
すると彼はさっそく相談があると言った。
だがお金のことじゃなく、匂いを嗅がせて欲しいと言ってきたのだ。
なんで?と当然の疑問を返すと、好きな人の匂いに似ているからだと打ち明けられた。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
「アキちゃんがすぐ目の前にいるみたいだ」
彼はそう言った。
電気がなかった時代、男女は匂いで相手を判断していたそうな。
そんな話が源氏物語にもあったよねと話しかけるが、彼は自分の服に染み付いた匂いが邪魔だなと言い出し、今日はだめかもと呟いた。
そしてまた来てくれませんか?と言うので、薫はそれはきっぱり断った。
著者名:黒澤R 引用元:金魚妻2巻
じゃあ、もっと近くで嗅いでいいですか?は拒めなかった。