
累12巻ネタバレ感想
咲朱としての美を奪っていた野菊は、かつて、高校の先輩だった幾と通じていて、再び美を失う。
彷徨える累は受け継がれた醜い運命を絶つべく、どこかの崖に上に立った。
しかし、やはり命は捨てられず、あの場所で羽生田と再会する。

日紅
累のまま冨士原と接触し、母のいざなのルーツを探った彼女は、全ての出発地である母の生まれ故郷の朱磐に辿り着き、羽生田と久方ぶりに再会を果たした。
自分だけの力で母について調べたかったのが消えた理由だが、結局、この地で何が起き何があったのかを知るには、彼の記憶を頼らないわけにはいかなかった。
何もない荒れ野が広がる風景の先に、黒くこんもりとした森があり、その中に槻という家があって、そこでいざなは生まれた。
醜さゆえに死を望まれ、何とか助産師に助けられ、しかし自分のせいではない理由で世間と隔絶された生活の中で、じわじわと心の中を憎しみで満たしていった。
羽生田がいざなに出会ったのは彼が11歳の頃、この地に母に連れてこられ、置き去りにされた時だった。
いざなは禁足地とされる小山の中に隠れ住み、そこで人の顔を入れ替える顔料の「日紅」を見つけた。
いざなが日紅がそこにあることを知ったのは、朱磐に伝わる神楽からで、その伝説を伝える神楽通りに美しい巫女の顔を奪ってから殺し、その後でこの地の神楽殿に立ち、初めての舞台を経験した。
そして村人たちを殺し、火を放って残酷な現実に復讐を果たしたのだった。
羽生田が作りたいのはその時の光景を思い出させるような、伝説を語る朱磐神楽だった。
それを知った累は、彼の舞台に出ると言った。
そうと決まれば、まずはまた美しい顔を手に入れなければならない。
また野菊の顔を奪い、咲朱として復帰すれば一番スムーズだが、今は野菊の行方が知れなかった。
彼の車から下りた累は、部屋を取ってある宿で一晩過ごしてから向かうと言ったが、それっきりまた消えるような気がした彼は腕を掴み、不安をそのまま言葉にした。
だがすぐ取り繕い、荷物だけ持って来いと言い直した。
天ヶ崎はもう、野菊を家の中に閉じ込めてはいなかった。
自由に外出できるようになった彼女も、幾に教えてもらった累の足跡を辿りつつ、ちゃんと家に帰っていた。
だが、これからは幾と共に累を本格的に探そうと思っていた。
彼は協力なら自分がすると言うが、彼女は彼を危険にさらすのを一番恐れていた。
他人から返される愛情を受け止め、彼は彼女が無事に帰ってくるのは静かに待つことにした。
そして羽生田は、冨士原から咲朱が会いに来たと連絡をもらうのだった。
ただその時彼は不在で、対応した者が受け取った伝言を後から聞いただけだった。
その何かの台詞のような伝言の意味は累にしか分からないもので、それは野菊と初めて出会った鎌倉の海で会おうと言っているように解釈できた。
明らかに何らかの罠を用意したとしか思えず、累は行かない方が賢明だと判断する。
だが羽生田は野菊の目論見が気になり、累に部屋の鍵を渡して一人で様子を見に行った。そして累は彼の車のエンジン音が遠ざかって聞こえなくなったのを確認し、本当に呼び出された場所に出向いた。
そこは、幾と初めて会った高校の体育館だった。
回りくどい詩的な伝言は野菊らしくなく、また羽生田が絶対知らないような個人的な思い出の場所に呼び出すのは、暗に一人で来いと言っているようにしか思えず、累はあえてそれに乗ったのだった。
しかし、羽生田は自分が出し抜かれるだろうことを予想し、鎌倉に行ったフリをして累を尾行し、体育館で3人が出会った直後に彼も入り、累の胸倉を掴んだ。
朱磐神楽の舞台に出ると言ったのも嘘だったのかと問い詰めると、彼女は違うと答えた。
野菊の顔で出るが、舞台に立つのも口紅を使うのもそれを最後にすると言った。
それを証拠に口紅を野菊に渡し、主導権を委ねた。