流血させるほど頭に見事な一撃を叩き込めたが、ゴブリンは怯むことなく逆に凶暴さを増して襲い掛かってきた。
その時にはもう、あの子に自慢できるなどと考える余裕もなく、一目散に逃げ出していた。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
必死に茂みを分け入り、突っ切り、一度も振り返らずにひたすら走った。
薄暗い茂みに覆われた木の下に身を潜め、乱れる呼吸を整えながら辺りを窺うと、近くに洞窟があるのが見えた。
こんなところに洞窟があるなんて知らなかった彼は、東の森の中で迷ってしまったのだと気づいた。
それだけじゃなく、さっきのとはまた違うゴブリンが二体も現れた。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
早く村に知らせなければと焦り、足元の小枝を踏み折ってしまった。
大きな耳で敏感に聞き取ったゴブリンが、じわじわと彼の方に近づいてくる。
早く逃げなければと思うが、二体相手にどうすればいいか分からず、歯をガチガチ鳴らすほど恐怖に襲われ身動きできなかった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
そしてゴブリンが木の裏を覗き込もうとしたその時、ゴブリンの喉に剣が突き刺さった。
背後にいたのは、頭まですっぽり兜を被った薄汚れた鎧姿の冒険者だった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
「まず一つ」
そう呟いた冒険者は逃げようとするもう一体に圧し掛かり、同じようにうなじから剣を突き刺して退治したのだった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
それで外にいるゴブリンを全滅させたと思った冒険者は、注意を洞窟の中に向けた。
少年は自分が手負いにしたもう一体がいるんだと教えなければと思い、恐怖を押し殺して茂みから飛び出して叫んだ。
直後、彼を後ろから襲おうとしていたゴブリンの頭に剣が突き刺さった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
間一髪で死を免れた彼は、握り締めていた木の剣を落とした。
冒険者はそれを拾い、危険を知らせてくれた彼にお礼を言った。
そして残りも全滅させるべく、洞窟の中に入っていった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
家に帰ると、もちろんこっぴどく姉に叱られ、拳骨まで食らわされた。
東の森が危険だと身をもって知った彼が素直に謝ると、本当に心配していた姉は元気な姿で帰ってきた弟の無事を喜び、涙を滲ませた。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号
そしてゴブリンはあの冒険者が全て退治してくれたことを伝え、明日帰ってくるあの子と遊ぶためにも、今夜はもう寝なさいと促した。
しかし興奮が治まっていなかった彼は、なかなか寝付けずにいた。
ゴブリンを初めて見て、ダメージを与え、逃げ回り、殺されかけたとんでもない一日。
でも最後には冒険者を助けて一緒にゴブリンを倒したことを、早くあの子に話したかった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年7号