程なく風雨は弱まっていき、雷雲が遠くなっていくのが見えた。
しかし、恐怖で叫びまくっていた藤柴はジッと待つのに我慢し切れず斜面を駆け上がり、その瞬間、彼女の目の前に雷が落ちて吹き飛ばされた。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
衝撃と電気ショックをまともに食らった藤柴は目を剥き、呼吸を止めていた。
八木はすぐに平らなところに運んで心臓マッサージを始め、林に人工呼吸するよう指示した。
突然の指名に林は躊躇したが、急かされて断れる場面でもなく、裏切り者の藤柴と口を合わせた。
八木は冷静に心臓マッサージを施し続け、林に人工呼吸のタイミングを指示する。
飯塚は共犯者が死ぬかもしれない状況になって、より強く自分だけはどんなことをしてでも生き残るんだと誓った。
そして的確で迅速な処置のおかげで、藤柴は息を吹き返した。
すると飯塚は何もせず突っ立っていただけなのをおくびにも出さず藤柴を抱きしめ、実は好意を抱いていたかのように生還の喜びを伝えた。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
もちろんそれは、いざとなったらまた藤柴を利用するためのフラグでしかなかった。
雨に濡れたせいで全員の体温は確実に下がっていた。
唯一雨具を用意していた八木だけはまともに濡れずに済んでいて、氷室は恨めしそうに彼を見つめていた。
できた水溜りを掬い、沸かしてできるだけ体内から暖を取った。
水分不足はある程度解消できたが寒さには焼け石に水程度でしかなく、誰もが風に吹かれるたび身体を震わせている。
八木は自分の分の雨具があることから、一枚だけ持ってきていた予備の乾いたウェアを取り出した。
着れるのは一人だけ。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
低体温症の恐ろしさを身を持って体験した早乙女、宮田、林はこの状況の危険さが十分に分かっていた。
まず自ら辞退したのは安斎で、裏切り者の氷室にも辞退を強要した。
続けて早乙女と宮田も辞退すると、本当に切羽詰っているのか、自分の行いも忘れて藤柴が手を上げた。
しかし、それも安斎が辞退を促した。
すると流れが悪いと見た飯塚が希望者でじゃんけんすればいいと進言し、安斎もそれは否定しなかった。
結局希望したのは、飯塚、藤柴、氷室という誰よりも我が身を優先し続けた3人だった。
そして、じゃんけんでも悪知恵を働かせた飯塚が勝った。
その後歩き出すも、やはり寒さが厳しかった藤柴は服を取り替えて欲しいと飯塚に相談する。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
彼はそこでも未だに同盟関係を強調して休憩時間に密かにしようと言い包め、ほくそ笑んだ。
やがて稜線の先に着いた。
そこは崖にも思える角と呼ばれる難所だった。
氷室を先頭にしたことによりペースは予定より遥かに遅く、ゆっくり休憩している余裕はなかった。
確実に慎重に登れば超えるのは難しくない場所だったが、佐藤と藤柴は手足の冷えとハンガーノックのせいで自力で登るのは難しくなった。
それでも安斎は遅れを待たず、氷室に急がせて二人で先に進んでいく。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
飯塚はどちらのグループにいるのが生き残れるか比べるが、ここで印象を悪くするのは良しとせず、藤柴に手を貸して恩を売っておいた。
八木は誰かが自力で動けなくなった場合でも、できるだけ安全に運ぶ方法も熟知していた。
藤柴の身体と自分の身体にロープを通してするすると結び、あっという間に自分の両手を空けておんぶしている体勢を作った。
佐藤は早乙女が背負うと言い出した。
背中と足に重傷を負っているが、宮田より体力があるし、人を背負って山を歩いた経験があるから大丈夫だと打ち明け、納得させた。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
今はあの時よりも重傷だったが、この縛り方が使える分、条件は悪くなかった。
疲労困憊の中登りが再開し、無事に角を越えた。
そこから目の前に聳え立っているのが、岩砕山だった。
著者名:志名坂高次 引用元:モンキーピーク7巻
ただ六ツ倉連峰最高峰を登る必要はなく、ここから左に降りてロープウェイ駅を目指せば良かった。
前を行く安斎と氷室ともそれほど距離はなかった。
しかし、後ろに猿の姿が見えていた。
感想
モンキーピーク7巻でした。
面白度☆9 林度☆8
1巻から7巻までずっとおもしろいって、なかなかないんじゃないでしょうか。
個人的嗜好に合っているだけかも知れませんが、他人の意見なんておもしろいと思うかには関係ないですからね。
ここに来て、林の怪しい言動が目立つようになってきました。病気で寝たきりの弟というのが、薬害事件と関係あるとしか思えないですが、まだ長谷川の安否も分かっていないので、怪しいとしか言えない状況でしょう。
でも、母子家庭でも父と死別とは言ってないので、長谷川父親説で共犯の可能性もありますね。