しかし百合子は、慎重に高台に乗せることが勝利への近道だと信じ、妄のダイスにぶつけるような一か八かを狙いにはいかなかった。
だが二投目も弾き出され、妄は計8になった。
追い込まれた百合子は最低でも妄のダイスを一つは外に出し、尚且つ出目で上回らなければならなくなった。
三投目をリスク覚悟で勝負に出、勢い良く投げたダイスは確かに妄のダイスに当たった。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
しかし、逆に外に出たのは百合子のダイスだった。
結果、百合子は合計0、妄は悠々と三投目も投げ入れ合計9で勝敗が決するのだった。
すると百合子は、茶碗を割ろうとする妄の手を掴んで止め、もう一度ギャンブルを挑んだ。
妄はもちろんやぶさかではなかったが、賭け代次第だといい、命を賭けろと命じた。
それはその位の覚悟でやれということだと言い直し、次負けたら伝統文化研究会を明け渡せと条件を出した。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
当然、会長と言えど常識的に一存では決められず他のものを提示しようとするが、いい加減妄の我慢は限界を超えそうだった。
ギャンブルを挑んでいるのだから、相手が納得する価値のあるものを賭けるのは当たり前のこと。
リスクを避け、失っても大して損のないものしか提示しない。
そんな程度の覚悟しか持てない茶碗のためにギャンブルをしようとする百合子に苛立った妄は、生徒会役員なんて性に合わないギャンブルできない女だと吐き捨てた。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
何も言い返せない百合子を叩き出せと綾女に指示した妄。
綾女はそこで特に他意なく軽く百合子を慰めた。
しかし、一生徒でしかない綾女に慰められたことで百合子のプライドが逆に傷つき、生徒会役員としてのアイデンティティを取り返すべく、女の命である髪を賭けると言い返した。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
大金や庶民には縁がない人脈の方が明らかに価値があったが、長く美しい黒髪を賭けた百合子の気概に同じ女として妄はほだされ、再戦を受け入れたのだった。
二戦目。
先攻・百合子の一投目は無難に4。
妄は一戦目と同様、百合子のダイスを弾き飛ばして場外にさせる。
だが百合子は妄の挑発に乗らず、堅実に高台の中に投げ込み、4を出した。
何と言われようと一か八かの手は使わず、確実性が高い堅実な一投で出目を稼ぐのを貫くつもりだった。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
案の定、妄はまたしても百合子のダイスを弾き飛ばし、合計6まで出目を増やした。
リスクを負って相手のダイスを弾き飛ばすことが勝利への近道だと叫ぶ妄。
同じく、自分の判断に絶対の自信を持つ百合子は慎重な一投が勝利への近道だと言い返す。
変わらずぶれず合理的。
それが百合子のギャンブルだった。
果たして百合子の三投目は6。
現時点で出目は同じになった。
そして妄は今まで通りに勢い良くダイスを投げ入れ、百合子のダイスにぶつけた。
しかし、百合子のダイスは淵で止まり、逆に妄のダイスが外に飛び出した。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
更に跳ね返った百合子のダイスは別の妄のダイスに当たって転がさせ、出目を一つ減らした。
百合子の合計6、妄は5となり、百合子がリベンジを果たしたのだった。
百合子の堅実な手が結果に結びついたこともあるが、今まで妄がよく自分のダイスを残して相手のダイスを弾き飛ばしていたことが、相当な幸運とも言えた。
指先より小さいダイスを当てて、相手のを落とし自分のを残す。
それは圧倒的な正確性が求められる一手で、妄の今までが異常に上手すぎただけだった。
妄は素直に負けを認めつつ、百合子の人間性と勝負してつまらないと吐き捨てた。
ギャンブラーとしてはつまらないが、だからこそ人の上に立つには最高の女だと賞賛した。
急に褒められた百合子は感情豊かに顔を真っ赤にして目を見開き、照れてしまうのだった。
著者名:柊裕一 引用元:賭ケグルイ妄3巻
そして百合子は、最後の最後でミスをした妄が、ただのギャンブル狂いなのかどうか一考の余地があると思った。