31話
誘拐から助け出された美月は大したショックも受けていなかったが、叔母の優衣は違った。
ただそれは非道な姉に対してで、犯人を失明までさせる必要があるとは思えなかった。
しかし薫は、光を奪えば復讐される機会がなくなり、今後増えるだろう被害者も出さなくて済むと思っていた。
美月を傷つけたわけではない罪に見合った罰ではないと言われると、美月が傷つけられたらそれはもう取り返しがつかないと言い返す。
結局何もできず、後から口を出してくる妹に対し、常識的なことを言って相手を貶めて自分を上げる作戦だと指摘した。
相容れない姉妹に挟まれた美月は、助け出されても暗く思い空気から解放されることはなかった。

佐藤と呼ばれた少年はいきなり液体をかけられて悲鳴をあげたが、程なくそれがただの水だと気づいて落ち着きを取り戻した。
すると、自分のことを棚に上げて蜜を呼び止め、服が濡れたなどと言って声を荒げた。
しかし、振り返ったのが相当な美女なので圧倒され、思わず怯んでしまう。
蜜はあえて自分が何もかも悪い加害者のつもりで下手に応じ、服の弁償を申し出た。
これ幸いと少年が勢い任せに30万も吹っかけると、蜜も素直に鞄の中に手を突っ込み、用意していた現金を生で差し出した。
少年はそれを引っ掴み、傍目からは強盗に見えるほど逃げるように走り去った。

少年は奪い取った金でさっそく新しいペットボトル飲料を買って喉を潤し、好きなものを買いまくり、友人に飯を奢り、金持ち気分を味わい始めた。
しかし、あっという間に万札が残り数枚になっているのに気づき、30万が大したことない額なのを思い知った。
性根が腐っていた少年はまた同じ方法で金を手に入れようと考えたが、次は明らかな強盗だった。
偶然見つけた妊婦にさっきのペットボトルの残りをぶっかけ、荷物を奪い、財布だけ抜き取って逃げた。

当然、30万に比べると圧倒的に少なく、妊婦の所持金に愚痴を零した。
そして家に帰ると、忌々しい父親がいてまた気分が悪くなる。
借金、夜逃げ、暴力で苦しめられ続けた少年はもう暴力には屈しないと声を荒げ、父親が何の用で来たと言おうと金の無心だと決め付け、怒りを治めない。
仕方なく父親が帰って部屋に行くと、今度は古い方のスマホがないことに気づき、それは母が父親に勝手にあげたと言われ、また一瞬で頭に血が上る。
母しかいない家にもいたくなくなり、またすぐに外に飛び出した。
むしゃくしゃしてオラつきながら歩き、わざと女性にぶつかる。
それでも謝ったのは女性なことに、彼は自分が強くて恐れているのだと勘違いを増長させていく。

しかし、すぐに自分が明らかに弱い者にしか立ち向かえない生まれながらの小心者なのを思い知らされる事態に追い込まれた。
どこか堅気じゃなさそうな男に本名で呼ばれ、ある動画を見せられた。
それは、妊婦に液体をぶっかけて強盗を働いている一部始終だった。
その妊婦はショックのせいか股間から赤茶けた体液を垂れ流していて、男は自分の妻だという。
もし妻と子供が死んだら・・・と言葉にされただけで少年は見苦しく小さな悲鳴を上げ、男たちに失笑を漏らさせた。
そして男は警察に行く前に、ある話を聞かせ始めた。

その話は人間の社会にも応用できることで、通り魔強盗などせずに少年のストレスの原因になっている本当の敵を倒せとアドバイスした。
男のアドバイスを鵜呑みにした少年は、いじめの歯止めが利かなくなった鶏になっていた。
感想
復讐の未亡人30話31話でした。
この2話がどこまで本筋に絡んでくるのか楽しみです。
ストレス発散に水強盗するところは、しっかりクズの遺伝子を受け継いでる証拠ですね。