スズキさんはただ静かに暮らしたい
3巻ネタバレ感想
仁輔との穏やかな暮らしを守るために、楠殺害の依頼を受けたスズキ。
その陰で、両親の仇の一人の楠に銃の扱いをレクチャーされている仁輔。復讐心に飲み込まれている少年と、血みどろの世界から抜け出そうともがいている殺し屋とのすれ違いは、どんな結末をもたらすのだろうか。
スズキさんはただ静かに暮らしたい
楠を殺した後は仁輔との穏やかな暮らしが待っている。
そう思うと、逸る気持ちが抑えられなくなってしまう。楠の足取りは以前掴めないが、じわじわと殺気だけは昂ぶらせていた。
裏をかくのが好きな奴だという新山の言葉に、空き室だったはずの隣室の電気メーターが動いていることに気付く。
もしかしてと思い、離れたビルの屋上からスコープで覗いてみると、仁輔と楠がベランダで接触しているのを見てしまった。
その夜、仁輔に問い質そうとしたが、見間違いであって欲しいあまりに確かめられなかった。
しかし、この機会を逃せるわけもなく、今夜決行する旨を新山に報告してからすぐに隣室へ忍び込んだ。部屋の中では、なぜかプロジェクターで映し出された仁輔がいた。何が行われているのか理解できず立ち尽くすスズキ。
その時、耳を劈く銃声が鳴り響いた。
物陰から出てきたのは仁輔本人だった。
彼の撃った弾が、スズキの腹部を確かに撃ち抜いていた。
急遽駆けつけた新山が見たものは、血まみれで倒れているスズキと、彼女の傷口を必死に押さえている仁輔の姿だった。
次第に状況が飲み込めた新山は言葉巧みに仁輔から銃を奪い、スズキに負わされた傷痕の恨みを晴らそうとし始めた。
そこに買い物から帰ってきた楠が現れた。
楠を殺す為に動いていたことを隠して状況の説明をして、隙をついて背後を取る。
一連の事件が全て後手に回ったのはお前のせいだと、馬乗りになって殴りまくった。
こんな顔になったのもお前のせいだと言われ、楠はその悩みを解消させてやろうと、割り箸を眼球に突き刺した。
形勢逆転され、新山はナイフでめちゃくちゃに切り刻まれ、最後はあっけなく口の中に銃を突っ込まれ、頭を吹き飛ばされて命を散らした。
瀕死のスズキを助けるには、知り合いの闇医者のところに運ぶしかないと言う楠。
その代わりにスズキと別れて、一緒に殺し屋の修行をするのが交換条件だと言い出す。
自分のせいで死にかけている彼女を救う為、その条件を飲む仁輔だった。
スズキは幼い頃の夢を見ていた。
父から毎日のように暴力を受け続けていた。
父親は殺し屋に狙われている妄想を現実にも持ち込むイカレタ男だった。
そんな奴から逃げ出したかったスズキは、父に強い殺意を抱いていた。
ある日、いつものように暴力を受けて外で時間を潰していた時、お前の父親を殺してくれないかと言って、近づいてくる男がいた。
「スズキ」だと名乗った男は本当に、家の窓にスコープで狙いを定めていた。
それから銃の練習を重ね、腕を上げた彼女はついに実の父親を殺してしまうのだった。
殺し屋デビューを果たした彼女は、すっかり裏の世界に染まっていった。
業界での評判も上々な彼女にやって来た次の依頼は、昔一家殺害を依頼したものの、娘だけを逃がした殺し屋の始末だった。
ターゲットはあの「スズキ」と名乗った男だった。
彼を見つけ、何であの時殺さなかったのかと訊くと、「さあな。でも、俺はあの時お前の涙を見せないようにするただの木だったから」と言った。
それから彼女は「スズキ」と名乗るようになったのだった。
傷が癒えたスズキは、仁輔がいなくなった部屋を引き払い東京に戻った。
なぜ仁輔が自分を撃ったのか答えが出ないまま空虚な時間だけが過ぎていった。
時を同じくして、仁輔はスズキが退院したことを聞かされ、撃ったことを謝る為に彼女の元を訪れた。
すると、楠が仁輔を人質にして、スズキの戦闘スイッチを入れさせようとした。
しかし、彼女は全く慌てる様子も見せず、淡々と銃を握っている楠の手を吹き飛ばした。
余計なことをするまでもなく、彼女はかつてのスズキに戻っていたのだった。
楠は一時撤退していった。
残された仁輔は消えろと無情にも言い放たれる。
それでも、撃ったことを謝り、今までありがとうと言って、雪降る街のどこかに消えていった。
これで良かったのか分からないスズキは、あの時自分を助けてくれた殺し屋に答えを問うた。
どうしてあの時助けてくれたのと訊くと、じゃあお前は何で仁輔を助けたんだと逆に訊き返される。
その答えは、ずっと彼女の中にあったものだった。
雪が降り続く街中を探し歩き、公園の遊具の中で眠っている仁輔を見つける。
そこに楠が現れて、指が残っている方の手でナイフを握り締め襲い掛かってきた。
ナイフを躱して、こめかみに銃口を突きつけたが、引き金を引こうとしないスズキに、苛立ちを募らせていく。
一体何を考えているんだと訊かれ、仁輔の為に何をしてやれるか考えていたと答えた。
それに強いて言うなら、親の仇である僕を殺すことぐらいしかないんじゃないの?と言う楠。
それは、今スズキが考えていたことと一致していた。
二人は、少しの間住んでいた漁港がある町に戻ってきた。
仁輔のカメラを修理に出したままなのを思い出し、彼に返さなければと思ったのだった。
せっかくだから一緒に写真を撮ろうよと提案するが、殺し屋は一切の形跡を残さず去るのよと言われる。
「これ以上は一緒にはいられない。私はただあんたに静かに暮らして欲しいだけなのよ、あんたが大好きだから」と。
やっとスズキさんの本音を聞き、仁輔も涙ながらに同じ思いを返すのだった。
古びたアパートでぐだぐだしていた時に、チャイムの音が響いた。
隣に引っ越してきた親子が挨拶に来たらしかったが、仁輔と同じくらいの女の子は生意気そうな女の子だった。
またうるさい隣人がやってきたものだと辟易するが、たった一葉の写真を見ていると、それも悪くないかもなと思えるスズキさんだった。
感想
スズキさんはただ静かに暮らしたい、3巻にて完結しました。
もっと読みたかったですが、当初のプロット通り描き切った感があるので、いい終わり方だったと思います。
一人の寂しがり屋の女の子が湧き上がる愛に縋りつこうとしたけど、相手の未来を考えて身を引く。
泣かせます。
また、こういった重い感じの作品で読んでみたいです。