クズの本懐1巻ネタバレ感想
周りが羨むような美男美女で品行方正なカップル、安楽岡花火(17)と粟屋麦(17)
この二人に思いを寄せる人は他にもいるが、傍目には完璧すぎて近づけない。
でも二人は、誰も知らない秘密を共有していた。
巻数目次
1話
いつものように、花火が麦を教室に迎えに来る。男子は花火に目を奪われ、女子は花火を羨ましがる。
誰から見ても理想的なカップルに見える二人。それは自分達でも十分自覚していた。仲睦まじく一緒に帰って、テストの結果をふざけて自慢したりするくらい、気の置けない間柄だ。
ふとした拍子にさりげなく唇を交わす。普通のカップルがしてるようなことを、当たり前のようにする。だって、付き合っているのだから。
早く来すぎた教室には、まだ誰もいない。教卓に顔を近づけて「お兄ちゃん」の香りを探していると、「花ちゃん」と声をかけて本人が入って来た。今は先生と生徒の関係でもあるお兄ちゃんは、油断すると昔の呼び方で呼んでしまう。
そう呼ばれた方が嬉しいのだけど、彼の視線は花火には向いていない。同僚の皆川先生に向ける目は、他の誰とも違うことに本人は気付いているのだろうか。
だから私たちは付き合っているフリをして、お互いが必要になったときだけ、相手に好きな人の影を重ねて見ているのだ。
報われない恋
切ない恋
片思い
そんなもの、美しくもなんともない・・・
2話
麦と花火はよく似ている。
お互い現在進行形の片思いをしているところも、寂しさを紛らわすために不毛な関係を良しとするところも。好きな相手が先生のところも。
そして、本心を隠しているところも。
久しぶりにお兄ちゃんがご飯を食べに来た。おいしいおいしいと言って食べてくれるので、内心嬉しさでいっぱいだった。その日は珍しく料理を手伝ったから、少しは自分に向けて言ってくれているようなものだと思う。
お兄ちゃんは中学生の頃から、口癖のように「素敵なお嫁さんが欲しい」って言っていたのに、最近は言わなくなった。その相手の姿がすぐに思い浮かぶことが悔しくて寂しい。
小学校のときの親子二人三脚の時は、お兄ちゃんが一緒に走ってくれた。おかげで一番になれたけど、本当の親じゃないと言ってくるムカつく同級生がいた。
学校で禁止されてる靴を履いてたから、お返しにチクッてやったっけ。
そうやって強がっても、ズルと言われたのは悲しかった。でもそれにすぐ気付いてくれたお兄ちゃんは、花火のお母さんから預かったお弁当をおいしいと言って一緒に食べてくれた。
花火にはお父さんがいなくて、お兄ちゃんにはお母さんがいない。お互いに羨ましいものを持ってるから、寂しい時助け合えるねって言ってくれた。
なのに、今は気付いてもくれない・・・
そうやって寂しさが募ったら、都合のいい関係の麦を呼び出して慰めてもらう。その場しのぎの温もりは、諦めないためのドーピングなのかも知れない。
3話
その日、花火は久しぶりに麦ではなく絵鳩早苗と帰った。
早苗は花火が好きだ。友達としてではなく、恋愛の対象として好きだった。だから、久しぶりに一緒に帰れるだけで楽しかった。友達同士で寄り道して楽しんでいるだけにしか見えないけど、早苗にとっては貴重な放課後デートだ。
だから、半分勢い任せで「なんで粟屋なの?」と訊いてしまった。のろけられたら傷つくだけなのに。
でも予想とは反対に「さあ、なんでだろうね?」と、本当に答えを見つけられずにいるようだった。
その反応で、粟屋のことを大して好きじゃないと分かった。思わぬ収穫だったけど、この関係がプラスになったわけじゃない。
でも分からない。好きじゃないのに、なんで学校にいる時でも、あんなにキスをしているのだろう?
なんで粟屋なの?と訊かれて、改めて思い出す。
高校二年になって、お兄ちゃんが担任として赴任してきて、これからバラ色の高校生活が始まると思っていた矢先、職員室であの女教師と楽しそうに話している表情を見て、予想外の伏兵が現れたことに衝撃を受けたのを。
皆川先生を敵視し始めたとき、粟屋麦が彼女に親しげに話しているのを見て、彼の目が宿す意味に気付いてしまった。
麦と皆川先生は、元家庭教師と元生徒。今は学校の教師と生徒。
叶う可能性の低い想いを抱える者同士で過ごす時間は自然と増えていった。最初はふざけてくっついただけだった。
でも相手をお兄ちゃんだと思ってしたキスは、凄く興奮した。
4話
「お兄ちゃんだと思ってみれば?」と麦は言った。麦のことを麦だと見ていても、相手にとっては関係ない。お互いに気持ちがないのは分かっているけど、やるなら徹底的に想像してみた。すると、感じたことない浮遊感のようなものがやって来た。
初めてのキスはピリピリして、二回目のキスはちゃんと代わりになれてるか考える余裕ができていた。
服を脱がされ胸を触られても、この手はお兄ちゃんの手だと言い聞かせた。手が下に伸びてきても、声は出さないように我慢した。花火としていると思われたくないし、思わせたくなかったから。
このまま最後までするのかと思ったとき、お兄ちゃんからメールが届いた。それで、その日は終わってしまったけど、この関係を続けるかどうか訊かれて、答えられなかった。
5話
鴎端のり子と粟屋麦は、同じマンションに住む幼なじみだ。二人でいるときは王子様とお姫様みたいねと言われた時から、麦はいつか迎えにきてくれる王子様になった。
頭のいい麦とは小・中で違う学校になったけど、ようやく高校で一緒になれた。なのに、彼女ができてるなんて思いもよらなかった。
しかも、相手が小学校で一緒だった、あの嫌な女だなんて。
麦をモノ扱いする女なんかと、なんで付き合っているんだろう・・・
感想
クズの本懐1巻でした。
思ったよりクズではなかったです。傷つけてるのは自分だけなので、問題ないでしょう。他人がとやかく言うことではないですからね。
恋愛感情がないとしても、こんな関係なら情の一つや二つは湧きそうですけどね。
皆川先生可愛いな。