疑心暗鬼
猿が先回りしていた事実で、いよいよ残りの飲食物を口にするのが難しくなってしまった。
小屋に着いても喉を潤すのさえ命がけで、まだ電話などの機器も見つかっていない。
宿泊予定の旅館や家族が警察に届出をしてくれるのは、希望的観測で早くて明日。時間で言えば長くはないが、今はたった一日が何倍にも感じられる状況だった。
遠野は同じ研究室の馬場の亡骸の前で、怒りと悲しみに震えていた。
執拗に打ち込まれた4本もの矢が、余りに無残だった。
その馬場の遺体を見た早乙女、宮田、林の3人は、猿が彼に抱く何か特別な怒りがあるような気がしてならなかった。
さらに辻殺しの犯人も紛れ込んでいる。
誰も信用するべきでない状況でも、林は面と向かって二人は悪いことをできるようには見えないから信用してるよと言い切った。
早乙女はいたたまれなくなって、さっき不可抗力でも殴ってしまったことを謝った。
すると林は、またニコニコして彼への信用を深めるのだった。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
藤柴と飯塚が細工した形跡のない缶詰を見つけて、皆が一箇所に集められた。
飯塚はまた早乙女を陥れて毒見させようとするが、その前に彼が自らその役を引き受けた。
宮田は止めようとするが、営業部長の氷室は早く食べろといわんばかりに喚きたてて二人が衝突してしまう。
明日になれば助けが来る可能性が高いが、このままでは何人か死ぬかも知れないと、早乙女が譲らなかった。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
結局、反対する声の方に勢いがなく、早乙女は覚悟を決めて口に含んだ。
途端に震え出してかと思えば、不器用な笑顔を見せた。
どうやら即効性の毒ではないようだが、毒によっては2時間の潜伏時間があるので、しばらく様子を見ることになった。
氷室が別の缶詰を早乙女に渡そうとした時、意識が戻っていた社長が怒号を飛ばした。
人間で毒見など許されない。製薬会社の人間がやることではない。このままでは誰か死ぬと言うなら、なぜ人生の先も短く、さらに重傷で役に立たない自分を選ばないんだと諭した。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
そこまで追い詰められているなら、若い者を犠牲にして何が公共の福祉だと叱責した。
何も言い返せない連中は無視して、社長は早乙女から新しく空けた缶詰を受け取り、口にして飲み込んだ。
みかんの甘さに社長は顔を綻ばせるが、直後、喉を押さえて苦しみ出し血を吐いた。
即効性の呼吸器系毒物、遠野が青酸カリだと言った後、社長は早乙女に「笑え」と言い遺して事切れた。
早乙女は過去の事故を思い出して、また俺のせいで殺してしまったと自分を責めた。
しかし、林に慰められてまた前を向いていく。
今夜は厳重に戸締りをして、放火対策に正面玄関だけを開けて一人ずつ見張りに立つことになった。
明日になれば助けがくるという希望を信じ、皆床に就いた。
真夜中の静寂の中、見張りでもないある一人が起き出して窓を開けようとしていた。
そこに見計らったように出てきた宮田が声をかけると、懐中電灯で照らされたのは氷室だった。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
さらに早乙女と安斎も駆けつけた。
今夜しか機会はない。
だから猿の犯行に見せかけるために玄関以外の侵入経路を作ってから事を成す。辻殺しの犯人はきっとそうするはずだと踏んで、待ち構えていたのだった。
氷室は密かにガメていた宮内のナイフを取り出して、3人に向けた。それでも怯まないと分かると窓から逃げ出そうとしたので、安斎が殴り倒した。
騒ぎを聞きつけた他のメンバーが来た時には、氷室は吊るし上げられた後だった。
事情を説明しつつ氷室を尋問するが、彼はただ外の空気を吸おうとしただけだと言って認めようとしない。
そもそも辻殺しが内部犯なのは憶測に過ぎないので、安斎はフォークを突きつけて「猿の仲間か?」と核心に迫った。
変わらず否定する彼の足に、躊躇なくフォークを刺した。
最早安斎は、囚人を監視して罰を与える刑務官のような気持ちに囚われていて、次々と氷室の足に穴を開けていった。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
ナイフで指を切り取ると言われた氷室は、ついに白状した。
金で雇われただけで、いざと言う時は助けてくれる手筈だったじゃねえか早乙女!と叫んだ。
著者名:粂田晃宏 引用元:モンキーピーク2巻
猿と仲間なのも辻を殺したのも早乙女で、俺は詳しいことは知らずにここで協力しようとしただけだと捲くし立てるが、もちろん早乙女は否定し、宮田もお前を捕まえる作戦を立てたのは早乙女だぞと援護する。
しかし、捕まって否定して疑心暗鬼を煽るまでが俺の役目だったと言い返した。
それがこんな拷問を受けるハメになったから全てを打ち明けたのだと。
その勢いに乗じて南が全て早乙女の筋書き通りだったんだと声を荒げ、開発室の黒木が背後からスコップで殴り倒してしまった。
気がつくと、氷室と同じように吊るし上げられていた。
安斎に賛成できないメンバーは仲間割れを恐れ、早乙女を信用し切れないことから手出しできずにいた。
好き勝手にできる状況を作り上げた安西は、それをいいことに残りの缶詰の毒見をさせてから、彼をサンドバックにし始めた。
どれだけ殴っても、身に覚えのない早乙女が言えることはない。
そうして人間同士が醜く争っていると、また猿が姿を現した。
感想
モンキーピーク2巻でした。
面白度☆8 尊敬できる社長度☆10
もう助からないって予想できても、そう簡単に命を投げ出すような真似なんてできないですよ。しかも言うことがカッコよ過ぎて、年長者の鑑みたいな人でしたね。
そろそろ飯塚に消えて欲しいですが、ああいうタイプはずるずる生き残るんでしょうね。
さて内部にいるであろう犯人。
氷室がどこまで担っているのか不明ですが、単純に考えるとまだ安否が確認されていない田中が怪しい。
実行犯ではなくても、今なら好きに動けるでしょうからね。
後はモンキー数匹説。林の笑顔は黒い説。遠野の冷静さは糸を操っているから説、等々、色々妄想しています。