5人になってから初めて海へ遊びにいった。
帰りの車内で後部座席に座った女性二人とまだ子供の澄也は、ぐっすり寝入っていた。彼は父に言われるまま3人の寝顔をカメラで撮ったが、また初穂の艶めかしい唇に見惚れてしまっていた。
後日、一は足を挫いた美子の代わりに初穂の授業参観に顔を出した。
そのせいか、緊張が増した彼女は数学の問題が解けずに恥をかく格好になった。
三者面談も彼が出たが、どうもデリカシーのない担任にイライラし、カッとなりそうになったが、話を断ち切るように「よろしくお願いします」とだけ言って、早々に切り上げさせた。
いつもなら解ける、数学は得意な方だ。彼女はそう言って先に帰った。
彼が家に着くと、彼女の母を呼ぶ声が外まで聞こえてきた。
慌てて彼も家の中に入ると、庭で美子が倒れていてピクリとも動かなかった。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
鶏小屋の扉が開け放たれたままで、彼女の傍に取ったばかりの卵が割れずに落ちていた。
大動脈瘤。
普段から血圧が高かったらしい。
父が病院に残り、3人は家に帰った。
安心はできないが今夜は安定するらしいと聞いても初穂の不安は治まらず、母の死を想像して取り乱し涙を流し始めた。
一は思わず抱きしめて、言葉より温もりで落ち着かせようとした。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
それで彼女も泣き止んで落ち着きを取り戻したが、彼は自分のした行動でなかなか寝付けなかった。
翌朝、初穂はおにぎりを作り、それを持って3人で病院に行った。
父は頑なに帰ろうとせず、誰がどの具のおにぎりを食べるかで些細なトラブルが起きた直後、美子の意識が戻った。
そろそろ澄也の誕生日が近く、美子は彼のリクエストに応えてカレーライスを作ってあげようと朗らかな笑顔を見せた。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
見た目には問題なさそうに子供たちを安心させているが、まだ油断はできない状態だった。
父と初穂が病室にいないタイミングで、一は見舞いにやってきた。
美子は迷惑をかけたことや授業参観のことを謝り、ベッドの上に正座をして続けた。
もし自分に何かあったら、玉井と血の繋がっていないのは初穂だけになる。それをあの子は凄く不安に思っているから、どうか本当の妹だと思ってやって欲しいと頭を下げた。
彼はただ、「はい」としか返せなかった。
明日の澄也の誕生日のカレー用にスーパーに寄って初穂は豚肉を選んだが、それは一の好みを訊いたものだった。
その後でコンビニにも寄り、彼はあの店員と軽く言葉を交わした。
夕食を済ませ、姉弟が仲良くお風呂に入っていた時、病院から電話がかかってきた。
3人が急いで病室に飛び込んだ時、父は美子に縋りついて号泣していた。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
通夜の夜は雨だった。
弔問客の男二人は、喪服姿の初穂に下卑た笑みを向け、連れ子の彼女はどこの誰に似たのかと声を潜めた。
父は未だ哀しみに暮れ、二階の部屋で休憩していた。
一と初穂が並んで座っていると、彼女の同級生と担任がやってきた。
担任はまた空気を読まずに慰めを押し付け、奥野は喪服姿の彼女に見惚れ、嫌がらせをした宇野は気まずいながらもそのことを謝った。
奥野は一度辞去してから、忘れ物をしたと嘘をついて舞い戻り、探し回るフリをしてから、強引に初穂を人気のない庭に連れ出した。
そこで優しく慰める体を装い、油断した彼女にいきなりキスをした。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
一は葬儀屋と段取りを打ち合わせ、ふと鯨幕の方に視線をやった。すると、幕がはためいてできた隙間から、初穂とさっきの男子がキスをしているのが見えた。
彼は思わず庭に躍り出て、奥野を殴り倒して怒声を浴びせた。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
奥野は慌てて逃げ出したが怒りは治まらず、自分の母の通夜で男子とキスなどしていた初穂にも一言言わざるを得なかった。
美子の遺影を前にして、ささやかに澄也の誕生日が祝われた。
一はいたたまれずに部屋に戻っていた。
初穂は彼のためにカレーを持ってきて、奥野にもうあんなことはさせないと言いながらそっと彼の手を取り、プルンとした艶めかしい唇に触れさせた。
著者名:松本剛 引用元:ロッタレイン1巻
感想
ロッタレイン1巻でした。
面白度☆8 妖艶度☆8
小説にできそうな人間模様と容赦ない日常劇でした。
蠱惑的な初穂に一は惹かれているようですが、それは色々一気に失ってしまって弱っているからなのだと思いたいですね。
どうかコンビニお姉さんとねんごろになって欲しい。