44話

八木はあくまで冷静で、あの羽織っている蓑が意外と硬かったと感想を漏らした。

 

彼が知っている猿神伝説では、悪さをする猿を投げ落として殺したのは女に化けた元武士の僧侶らしく、男には殺せず男乙女でないとならない、と言い伝えられていた。

そこで林は早乙女に乙女の字が入っていることで、茶化して頼りにしてるよと声をかけた。

 

 

八木が気になっていたのはなぜ猿がこのタイミングで人を襲い始めたのか。

 

自分たちが狙われる理由と言えば、薬害疑惑しかなかったが、それは風評被害で決着がついているはずだった。

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/3号

 

しかし早乙女は、ある一人を殺したいのをバレないように無差別殺人をしている可能性を示した。

 

ただ八木の妹にとっては、薬害疑惑だろうと個人的な恨みだろうとどっちにしても関係ない話で、兄はより一層恨みの気持ちを強くした。

 

 

先頭の安斎が鎖場に差し掛かった頃、グループの中間辺りを歩いていた佐藤はほぼ飲まず食わずで来たこの3日間の疲労とエネルギー切れで、ハンガーノックを起こしていた。

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/3号

 

彼女の異変に最初に気づいたのはインテリの遠野で、彼自身もエネルギーが切れかけているのを感じていた。

そして、飯塚と藤柴だけ未だ特に疲労の色を見せていないことにも気づいていた。

 

怪しまれた二人はあえてグループの列が伸びるのも構わず遠野を先に行かせた。

列が伸びているのにペースを落とさない安斎の意図に気づき、いざとなったら犠牲にできる駒を手に入れるため、最後尾で息を切らしている南を待った。

 

僅かに配布された個人の食料を食べ切っていた彼は、二人にも浅ましく水だ食料だとねだってくる。その我が身可愛さの人間らしい本性につけ込み、飯塚は藤柴に食料を渡すよう迫った。

 

彼女はもう誰かに頼ることでしか判断できず、飯塚に任せきりになっていた。

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/3号

 

 

45話

安斎は仁衛門岩が見える場所に辿り着き、早乙女たちも人が来たのを視認できた。

 

 

その頃佐藤は、鎖場の途中でエネルギー切れを起こし立ち止まっていた。

 

遠野が助け起こそうとするが、誰も信じられなくなった彼女は手を振りほどき、何とか先に進もうとした。しかしその時、鎖場の後方に猿が来ているのが見えた。

 

佐藤は必死で前に進むが、歩みはゆったりで、南は容赦なく罵声を浴びせて焦りを募らせていく。

最後尾だった藤柴は佐藤の遅さもそうだが、真ん中に陣取り文句を垂れまくる南も遅いのに苛立つ。

 

南、飯塚、藤柴を大声を張り上げて佐藤を急かす。

猿はすぐ後ろまで迫ってきている。

このままだと追いつかれて殺されると思った南は、ついに前を歩いていた遠野を蹴り落とした

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/10号

 

だが彼は、なんとか落ちる途中で岩にしがみつくことができた。

 

なりふり構わなくなった南が近づいてくるのを見た佐藤は全力で前に進むが、途中で鎖が切れていて進退窮まり、その場で少し上に登って仕方なく南を先に行かせた

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/10号

 

その隙に飯塚と藤柴も佐藤を追い越し、彼女は岩陰に見えなくなりゆく佐藤を見て盛り上がってくる涙を必死に堪えた。

 

南は最早、人の皮を被った悪魔だった。

 

 

46話

遠野は足場までよじ登り、まだ上の方にしがみついていた佐藤に逃げるよう促して彼女を先に行かせるが、やはり彼女は息も絶え絶えでなかなか前に進まない。

 

しかし、猿はなぜかつかず離れずの距離を保って襲ってこようとはしなかった

 

 

仲間を蹴落として先に行った南たちは、カニ歩きが終わった場所まで抜けた。

その時、八木の危険を知らせる笛の音が響き渡った。

 

 

早乙女たちのいる位置からは、安斎がいる頂の下方に猿が確認できた

 

 

進む方向にも猿がいるらしいと分かった南たちは、一先ずその場で待機することにした。

しかし、程なく佐藤と遠野が追いついてきて、二人の後ろに猿がついてきているのを見て、またパニックに陥る。

 

すると南はまた自分だけが助かる道を選び、落ちていた石を拾い、二人の前に立ちはだかり、戻って猿と戦えと怒声を飛ばしたのだ。

さすがに飯塚と藤柴もあっけに取られ、佐藤は何を言われたのか一瞬理解できなかった。

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/17号

 

信じられず何か言い返そうとすると、南は容赦なく拾った石を投げ、それは逃げ場のない佐藤の腹部にしっかりと当たった

 

ついにキレた佐藤は叫びながら南に飛びかかろうとし、彼は無事な片腕で臨戦態勢を取った。

 

さすがに男女差のせいか、向かっていくだけの佐藤に南は渾身のストレートを顔面に叩きこみ、彼女は背中から地面に倒れた。

 

骨折していることを免罪符に、醜い本性をずっとさらけ出し続けていた南は殴り倒した女性に戦えとまだ迫る。

鼻血を吹き出した佐藤は苦し紛れに足を出し、それが彼の腹に当たり、彼女と同じように後ろに倒れていった。

著者名:志名坂高次 引用元:漫画ゴラク2017年11/17号

 

他人を蹴り落として助かろうとした南は、逆に蹴り落とされて新たな犠牲者になってしまった。