何も考えず即金で5千万と頼み、もちろん何の信用もない輝子は断られたが、あるゲームに出場して勝利すれば望むだけの金が手に入ると提案された。

 

 

普通ならまともに聞く価値のないふざけた話だった。

 

しかし輝子にもう後はなく、訊かれるまま覚悟の程を答え、残酷なる天使に命の権利を握られてしまったのだった

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

参加者認定された輝子は、チケットを受け取り促されるままエレベーターで帰ろうとした。

 

普通のビルに何の変哲もないエレベーター。

ドアを開け、乗り切る前に箱が落下し、頭だけ押し潰され、この世を去った。

 

そこまでが輝子の、アイドルに懸けた半生だった。

 

 

 

間違いと言えるのは得体の知れない相手の口車に乗って金に目が眩んだことかも知れないが、姫蘭で夢を叶えるにはどうしても金が必要だった。

 

最早思考も定まらなくなってきた姫蘭は激痛の中、涙を流し始めた。

 

クロエルはここまで奮闘した姫蘭を讃えるという名目を振りかざし、シロエルにハグで温かい最期を迎えさせてやるよう指示した。

 

もちろんハグとは言葉だけで、圧倒的パワーによる天使万力だった。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

人間への慈悲の心で溢れているシロエルは、孤独な最期をせめて温かさで包み込もうとする。

 

姫蘭の背骨は砕かれ、内臓が潰され、肘が折れ、行き場を失った血や体液が顔から下から飛び出していく

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

姫蘭は、ただ声にならない絶叫を上げるしかできない。

 

 

カエデは早く姫蘭がどこの誰かを思い出して、苦しみから解放させてやりたかったが、どうしてもあの歌をどこで聴いたのか思い出せないでいた。

 

腹部が平らにされそうになりながらも姫蘭はまだ意識を保ち、アイドルの姫蘭で天下を取り、生きた証を残したいと思った。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

どうせ死ぬなら、自分が生きた証を残してから死にたいと願った。

 

その時思い出したのは、もしかしたら人生で一番幸せだった時間かも知れない光景だった。

 

 

 

嫌っていたはずの男に救われ、結婚し、授かった天使のような男の子。

 

男性アイドルとして育てたいとも思ったが、我が子に夢を押し付けるようなことはするべきではないと自然に思えた。

 

でもせめて、自分の曲を子守唄代わりに聴かせることで、歌詞に込めた意味の通りに、人生を歩んで欲しいと願った

 

そんな無償の愛を激痛の中で思い出せた姫蘭は、自然と笑みが零れた。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

 

直後、姫蘭の中身は外にぶちまけられた

 

 

これにて、格闘地獄が終了した。

 

 

 

シロエルの勝利が確定すると、これまで通りに姫蘭の正体が明かされた。

 

四宮輝子、旧姓南野口輝子39歳は、死んだままで現世の姿を取り戻した。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号

 

 

 

クロエルはほくそ笑んだ。

 

 

姫蘭の正体を見て誰よりも驚いたのは、この後地獄を味合わなければならないカエデだった。

 

なぜなら二人は、親子なのだから。

著者名:鬼八頭かかし 引用元:ヤングガンガン2018年20号