女給が急に彼を気にし出したのは、最近になって彼が酒場に顔を出すようになったからだった。
冒険者としては5年のキャリアがあると丁稚が言うので、丁度受付嬢の笑顔が増え始めた頃と一緒だと気づいた。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
そして、丁稚は彼が牛のシチューが好きらしいとも教えてくれた。
女給はすぐにおっちゃんに教わりながらビーフシチューをコトコト煮込み始めた。
教えてもらったおかげで味は問題ないとお墨付きをもらえたが、冒険者には歓迎されないメニューだと言われてしまう。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
なぜなのか頭を抱えていると、噂の受付嬢がご飯を食べにやって来た。
仕事が忙しく少し遅い昼食を摂りに来た受付嬢たち。
そうして食べ損なうことも珍しくないのに、槍使いが見惚れるたわわなバストサイズに、しっかりとくびれた腰つき。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
女給はこういう相手にこそ食べさせたい願望を湧き上がらせ、初めて作ったビーフシチューの味見をしてもらおうと思った。
しかしビーフシチューと聞いて、受付嬢たちもはたと思った。
仕事をして帰ってきた冒険者は、差こそあれど血を見ている確立が高い。
そこに、赤黒い血に見えなくもないビーフシチューはどうなのかと。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
案の定、その夜の酒場ではビーフシチューはほぼ減ってくれなかった。
その時、今日はソロ冒険から帰ってきた彼を見つけたのですぐに声をかけてビーフシチューを薦めてみたが、いつものように断られてしまうのだった。
大いに売れ残ったビーフシチューを丁稚に差し入れ、話が違うとぼやくと、彼も噂で聞いただけだと言い返す。
丁稚モ丁稚で今は下働きばかりの毎日で重要なことは任せられていない。
だから、女給が一生懸命に考えて薦めたものをスルーされる悔しさは分かるし、せめて理由を知りたいと願う気持ちも分かる。
女給は共感してもらえたことに熱くなってグッと顔を近づけ、また意図せず丁稚の心臓をバクバクさせてしまっていた。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
そして今度は、誰よりも彼を知っているだろう牛飼娘に話を訊いてみてはどうかとアドバイスした。
女給は商品を卸しに来た牛飼娘に声をかけ、シチューの作り方を訊きながら受付嬢より大きいかもしれないバストの秘密が気になった。
でも牛飼娘は、一風変わったシチューが作れるわけではないという。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
女給はあのいっつも兜で顔を隠してゴブリン退治ばかりしている冒険者が、冒険後に何も食べようとしないことを打ち明けた。
女給として酒場の料理を食べさせたいだけだというが、牛飼娘は彼に気があるからかも知れないと心配になる。
駆け引きしない女給はさっさと否定するも、手料理と言えば丁稚くらいしか逆に浮かばなかった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
牛飼娘は女給の言葉を信用し、特に変わったところのないシチューの作り方を教えてあげた。
牛飼娘もその味がいつから受け継がれて彼がいつ初めて食べたのかも知らなかった。
そのレシピは、彼の姉から教えてもらったものだったからだ。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
後日、いつものように忙しく動いて重戦士パーティーに料理を届けに行こうとした時、受付嬢から酒場に顔を出すよう言われた彼がやって来た。
女給は用意しておいた特製シチューを皿によそって出し、戸惑う彼に味見だと言って強引に渡した。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
彼は兜をつけたまま、隙間から器用に流し込んだ。
そして、悪くないと答えた。
初めて薦めたものを食べてもらえ、感想をもらった女給は耳をピコピコ動かして喜び、勢いに乗ってシチューの注文を取ろうとしたが、それは断られてしまう。
ただ、人を待たせているから時間はないと理由を聞き、牛飼娘の言っていた通り、彼に悪気はなく優先すべき順位がしっかり決まっているだけだと分かった。
著者名:蝸牛くも 引用元:ビッグガンガン2018年8号
返事はいつも簡潔で言葉足らずで、でも待ってくれている人がいる家に帰り、一緒に食事を摂るのだろうと思うと、兜で覆われた姿も可愛げが感じられた。
感想
ゴブリンスレイヤーブランニューデイ2話3話でした。
オムニバス形式の第二話は、冒険者でもない少年のお話でした。
3話は血生臭くない、ほっこりできる可愛い女給の奮闘劇。
ゴブスレの世界の中で「姉」と言うのは、良くも悪くも大きな存在みたいで、ブランニューデイの少し柔らかい画風の姉キャラというのも、なかなかいい感じだと思います。